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恋愛は不況を救う?!
福岡の「婚活」事情-県が取り組む「新たな出会い応援事業」とは

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■婚活とは…


 そもそも「婚活」とは、就職活動を「就活」と略していうのに倣ったもので、昨年3月に出版された中央大教授・山田昌弘さんと少子化ジャーナリスト・白河桃子さんの共著「『婚活』時代」から流行語になったと言われている。同書では、就職するために「就活」が必要なように、結婚するためには結婚活動が必要だと唱えている。

■福岡県はやっぱり女性が多い?


 「福岡にはかわいい女性が多い」――とは他県の人からよく耳にする言葉。
まずは福岡県の現状を、データから考察する。


 少子化の一因である未婚化・晩婚化の要因を把握・分析し、有効な支援策を検討するため、県では2005(平成17)年に「未婚化・晩婚化に関する研究会」を設置した。多様な分野の9名の委員で構成し、2007(平成19)年3月に研究報告書がまとめられている。


 同報告書によると、25~29歳の男性の数は162,982人、女性は172,379人。30~34歳、35~39歳も表の通りで、それぞれ95:100、95:100、93:100となる。全国平均ではそれぞれ103:100、102:100、102:100とやや男性が多いので、巷で言われているように、福岡はやや女性が多いと言える(図↓、2005(平成17)年 国勢調査)。





 うち男性の未婚率は25~29歳で70.5%、30~34歳で45.3%とそれぞれ全国9位・14位だが、女性は62.3%、34.9%と、それぞれ4位・3位という結果が出ており、全国的に見ても特に女性の未婚化、晩婚化が進んでいるといえそうだ(図↓)。





 また、初婚年齢も全国の傾向と同様に1975(昭和50)年頃を境に一貫して上昇しているが、福岡県で最大3.0歳あった初婚年齢の男女差が、2005(平成17)年で1.4歳差になるなど、特に女性の初婚年齢の上昇が見て取れる(図↓)。





 しかし2003(平成15)年に県が実施した「子育てに関する意識調査」では、「一生結婚するつもりはない」とする未婚者は男性4.3%、女性5.7%となっており、未回答を含めても約1割。つまりいずれは結婚しようと考える未婚者が9割にも上っている(図↓)。





 県の子育て支援課主任主事、熊谷優子さんによると、「福岡は女性のほうが多いのは事実。その数字の差をどう見るかは人それぞれですが…考えられる要因は、九州の大学・短大の約半分が福岡にあるので、主に九州各地などから来福する女性が多いのでは。また推測ではあるが、男性の就職時に大都市やUターンも考えられる」と話す。

 県内での同様の県民調査は2008(平成20)年度にも実施され、今年6月下旬にも公開される予定。現在集計中としながらも、「独身の理由や傾向は変わらないようだ」という。なお次の国勢調査は2010(平成22)年だが、景気の冷え込みが更なる未婚化・晩婚化に拍車をかけている可能性は否定できないだろう。


 それでは…一体どうすれば、相手を見つけ、結婚できるのか…実は福岡県でも少子化対策の一環として、出会いを支援するイベントを行っている。



■県が取り組む「出会い応援事業」


 その役割を担うのは福岡県福祉労働部・子育て支援課。全12人の職員が県の出会いや子育ての応援事業に取り組んでいる。同課は保健福祉部企画課から2006(平成18)年4月に独立、発足した。幅が広く様々な部署で関わる少子化問題において、特に労働問題やワークライフバランスなどの部分で、より連携を取りやすくするため、昨年4月の機構改革で現在の部に設置されている。取り組みは、2005(平成17)年から「新たな出会い応援事業」としてスタートした。


 そもそも出会い応援事業は、前述の意識調査や、上の図に示す出生動向基本調査の「結婚できない理由」で、実に独身の57%が「適当な相手にめぐり会っていない」から、と答えているにも関わらず、いずれは結婚しようと考える未婚者が9割にも上っていることから、出会いの機会をつくり、機運を高めていくことを趣旨に始められた。同様の事業はおおよそこの時期に全国でもスタートし、各県が様々な施策を行っているという。


 福岡県の出会い応援事業は、この約3年半で累計の参加者が1万人を突破している。熊谷さんは「出会いのニーズはかなり感じる。その中では結婚し、子供を授かった組も何十と報告を受けている」と、報告のなかったものを入れると、相当数が出会っているという。


 また現在の婚活ブームについては、「行政という立場からは、県で婚活というのを定義づけているわけではないが、最近はやはりブームで、メディアで取り上げてもらえる機会が増えている。行政もやっていることを知っている人はそれでもまだ少ないが、逆に必要とされているのかなとも感じる。結婚は個人の領域で、県がやるのも賛否両論ある部分もあるが、県や行政が後押ししているということで、一歩でも踏み出しやすくなれば」と話す。



 では実際の出会い応援事業とはどんなものなのであろうか。同事業については、県が「福岡県地域福祉財団」に出資して業務委託し、同財団を事務局としている。同財団で業務に携わる前から福岡で様々な出会いの機会を作り、その様子を約8年もの間見守ってきた、「春日の母」こと同財団振興課の山崎雅子さんに話を伺った。


 財団では企業からも積極的に出会いの活動を行ってもらう「出会い応援団体」の登録を推進。今年3月末で県の登録団体は211社となっている。マナーアップ講座や少子化・結婚を考えるフォーラムなども行っているが、出会いを応援する同団体がボランティアで、様々なイベントやパーティーを企画、昨年度ホームページで募集した公式イベントは、163にも上る。男性2,228人、女性2,248人が参加し、415組のカップルが成立している。取り組みは全国と比べても「活発なほうで、他都市や地方などからも問い合わせがある」という。県ではメルマガ「ふくおか“あかい糸めーる”」で出会いのイベント情報の配信も行っている。


■行政の安心感と割安感が人気


 県が行うことについて、山崎さんはメリットをこう説く。「民間と比べて安心感は持っていただけていると思う。当然、県としても参加される方を企業などとも緊密に連絡を取り合い、トラブルのないように努めているし、結婚相談所や民間パーティーなどのわずらわしい登録性がなく、後追いしないのもひとつの特徴で、比較的経済的」。また「特に女性が好きそうなイベントやシチュエーションを企画しているので、出会い以外にも満足できる内容になるように心がけている」と話すように、男性よりも、女性の参加者が殺到しているという。
 イベントが行われるのは、例えば市内では博多区や中央区を中心としたホテルのレストランやカフェ、居酒屋をはじめ、恋愛成就の三社巡りやバスハイクなども行われている。他にも年下を希望する女性と、年上を希望する男性というシチュエーションなどのイベントや、博多湾遊覧船「マリエラ」でのクルージングパーティなど、参加者の目を引くイベントも目玉のひとつ。イベントは月10~15回と相当数行われており、参加のチャンスは多いともいえる。イベントの様子を実際に取材したが、参加者も最初はやや緊張気味だったが、すぐに自然な雰囲気になり、気軽に参加できそうなものばかりだったというのが正直な感想だ。



――では、山崎さんはここ最近の「婚活」ブームをどう見ているのだろうか。


 「福岡でイベントを始めたばかりの頃は、20代をはじめ若ければ若いほど少なかった。ところが30~40代の世代を見てある種の危機感を感じたのか…または注目されたのをきっかけに、最近は抽選になるほど多くなってきた」と話す。「婚活ブームを一概に手放しで喜べないが、意識が高まることはとてもいいことだと思う」と話し、婚活ブームで足を運びやすくなったとも分析する。


 また「従来から結婚相談所やカップリングイベントを行う企業はあったが、県が取り組む、ということで、安心してきていただける部分も多い」と話し、ブームを象徴するかのように昨年の6~7月から参加者も増えているという。「団塊ジュニアがちょうど30代半ば…このままではいけないと気付くきっかけの一歩になったのかな」との見解も。「きっと隠れ需要はまだまだ相当あると思いますよ」との見解を示した。



■春日の母が説く「婚活」のアドバイス


 また山崎さんによると、「市内のあるホテルでは、4分の1がいわゆる『できちゃった婚』で、4分の1が年下婚(男性が年下)」ということで、時代によって結婚の形や社会の容認の仕方が変わってきているようだ。また情報社会で様々な情報が飛び交う中、年齢が上がるほど、相手を選ぶ基準が上がっている傾向があるという。


 そんな山崎さんに、婚活のアドバイスを伺うと「この言葉が出る前から、もともと就職活動と同じ部分はとても多いと思っていました。あまりガツガツした印象になりすぎるのもどうかと思うが、身だしなみや礼儀、思いやりなどは一緒。就職活動同様ひとりですべきで、選ばれる、という気持ちが大事」と話す。また「見た目やステータスで毛嫌いしたり、理想を決めるのは意味がない。自分を見つめ直して、いろんな人と積極的に話すべき」とも。



■恋愛は不況を救う?


 更にはこんな発言も。「恋愛することによって、おしゃれだってするし、デート先でもお金を使うでしょう。家から出ないより、経済効果もあると思う」と話し、「イベントを行う場所については、空いている時期に空いている場所を有効活用しており、ボランティアだがその場所に売り上げは上がっている」と地域貢献の側面があるという独自の意見も飛び出した。


 山崎さんは「子供を産んで二人で育てていくことによって、子供とともに自分たちも成長していく。苦労も多いが、その喜びを味わってほしい」と話し、「できれば本人たちが元気なうちに、できるだけ早く。育てるのも若いうちが楽。出会いを求めることを恥ずかしがる必要はない」と話し、「ひとりで生きるより、誰かと手をつなぎ合う老後があったほうがいいのではないか」と提案した。



■子育てにやさしい社会づくりを


 このほかにも県では子育てにやさしい社会づくりのために、2007(平成18)年から「『子育て応援の店』推進事業」も行う。就学前の子供がいる子育て家庭に向けたサービスを提供する店舗を募集し、それぞれの店でサービスを行う。例えば保育士が常駐するレストランや、美容室でスタッフが子供をみるなど、デパート、薬局、スーパー、飲食店、金融機関など県内で拡大を続けている。


 これはつまり、登録団体を増やし、社会全体で子育て応援の機運を高めていこうというものだ。現在7,401店舗(2009年3月末現在)が登録しており、今年度末に10,000店舗を目標にしている。掲げることでお店側のPR効果にもつながる。「家に閉じこもり的になる母親にも地域で支える雰囲気があればいいのでは」と熊谷さん。
 
 県では広報番組や広報紙、HPのほか、地域福祉財団、市町村役場などとも連携しながら、広報活動を行っている。「これをすれば少子化にきくというものはない。企業や地域のみなさんと協力してやっていくことが不可欠」(熊谷さん)と話すように、地道な活動が口コミでじっくりと広がっている。今年11月には「ふくおか・みんなで『家族の日』キャンペーン」を企画、家族や子どもを地域で支える仕組みを作っていく。


■自分を真剣に考えるきっかけに


 未婚化・晩婚化には、非正規雇用の拡大や世の中の経済状況、収入、社会制度のほか、価値観、ライフスタイルの多様化など様々な要因がある。結婚や人生観はあくまで個人の裁量に委ねられることであるが、県や行政が取り組むのは、少子化が引き起こすと思われる問題…つまり社会保障制度の崩壊や経済活動・労働力の低下、子供の社会性の低下の懸念などさまざま。そこに行政が携わる理由がある。今月4日に総務省が発表した人口推計でも、15歳未満の子供の数は1982(昭和57)年から28年連続減少し、過去最低を更新している。景気回復で2006(平成18)年から出生数の微増も見られたが、少子化に歯止めはかかっていない。


 本人が望むライフスタイルを送ることができればそれが一番いいのかもしれないし、とやかく論じる内容ではないのかもしれない。「結婚=幸せ」が絶対ではないが、それでも多くの人が結婚したいという事実がある。結婚を考えている人には、前述した行政の取り組みに参加するのも一つの選択肢として検討してみるのもいいと思う。


 また、自分の内面や人生を真剣に考えるという意味で、「婚活」は「就活」に非常に近い印象だった。こういった言葉をきっかけに結婚や、大きくいえば自分の内面や人生のことを真剣に考えるきっかけになればと思う。


 しかしこの長い歴史において、先祖代々引き継がれてきた「夫婦」や「家族」といった制度は、現代においてもこれを上回る制度はまだ生まれていないことも事実であろう。はたして皆さんは、いかがお考えであろうか。


 熊谷さんの言った言葉が印象的だった。
「子供は社会全体の宝。子供の声がする社会のほうが、きっと明るい――」。


取材・文/編集部 水間健介

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