特集

中洲を桜で満開に
会員制クラブ「ロイヤルボックス」経営 藤堂和子さん

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■中洲は夢を売る場所

高級クラブのママが似合わないスコップを片手に桜の木の根元に土をかぶせている。中洲の会員制クラブ「ロイヤルボックス」のママで経営者の藤堂和子さんだ。「やっとこの日が来ました」。10年ほど前から考えていたという桜の植樹。「品のない呼び込みや自転車の駐輪が増え、街がどんどん汚くなる」と中洲地区の景観の悪化を懸念し、中洲町連合会や中洲観光協会のメンバーに呼び掛けた。市にも協力を要請し、周囲を巻き込んでの一大プロジェクトとなった。


「昔は呼び込みの黒服たちも品があって、ホステスもエレガントだった。通りで見かけた、きれいなホステスを追って、客が店に流れてくることも多かった。それに比べて、最近は自転車で通うホステスがいたり、下品な呼び込みが目に余る。繁華街・中洲は無くならないけど、衰退していくようで見ていられない。夢を売る場所なのに」


プロジェクトの初日には、中洲警部交番周辺で第1弾となる桜8本の植樹を行った。桜の品種は二季さくらの「アーコレードII」。植樹を終え、約3週間後には藤堂さんの熱意に応えるようにきれいなピンク色の花を咲かせた。


花が咲いたときは10年越しの思いが叶って本当にうれしかった」と藤堂さん。「気付かない人は全く気付かないけど、信号待ちしている人が『あれ?桜?』と驚く顔をクラブの窓から見るのが楽しい」という。今年11月までに中洲大通りに計50本の植樹が目標だ。


45年分の恩返しを

藤堂さんは1946年、福岡市に生まれた。トヨペット福岡で事務を行っていたところ、義姉の出産のため、兄に頼まれ、義姉の店である「リンドバーグ」を20歳で手伝い始める。「酒も飲めず、水商売が嫌いだったので仕方なく手伝っていた」という藤堂さん。そんな藤堂さんにスイッチを入れたのは、先輩ホステスのこの一言。「きれいな人は黙っていても良いけど、ブスはしゃべらんといかんよ」――。「今でもしっかり覚えとう。も~私をブスみたいに言った(笑)」


ホステスという職業に踏ん切りがつかないまま、店に立つ日が続くが、
――常連客「ママ(義姉)は?」
――店「今日はいません」
――常連客「じゃあまた」


義姉が留守の店内で、日々繰り返される常連客とのこんなやり取りに一念発起。「頭くるじゃない?たまにはのぞいてください。私とお話しましょと声をかけてみたんです」。スイッチが入った藤堂さんに先輩ホステスが驚く中、瞬く間に店のにぎわいが戻っていったという。


半年後、義姉が復帰するものの、店の客はほぼ藤堂さんのファンに。「姉は『和ちゃんの時代だ』と店から身を引きました」。24歳で「リンドバーグ」を引き継いだ。


その後、リンドバーグが火事になる災難に見舞われながらも人気店に成長させ、90年代には兄の店だった会員制の高級クラブ「ロイヤルボックス」の経営も引き継ぎ、現在は「リンドバーグ」の元VIPルーム「LB」を含む計3店舗を経営している。


今年で66歳の藤堂さん。45年――人生の半分以上を中洲で過ごした。「私はここで食べさせてもらって、子どもも育てられた。中洲があったから、ここまでこられた。恩返しの気持ちで自分がいる間に中洲をきれいな街にしたい。そして、桜が満開の中、引退するのが私の夢」と目を輝かせる。





取材・文/編集部 秋吉真由美

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