「福岡アジア美術館」入口外観
提供:福岡アジア美術館 制作:博多経済新聞
中洲川端駅直結の「あじび」こと、福岡アジア美術館。今から25年前の1999(平成11)年3月6日、博多座、ホテルオークラ福岡、商業施設(現在の博多リバレインモール by TAKASHIMAYA)、リバレイン通り商店街、オフィスからなる複合商業施設として開業した「博多リバレイン」の一施設として開館しました。アジアの近現代美術に特化した美術館としては世界で初という同館。現在までに全国・全世界から多くの方が来館しています。
開館25周年を記念して、本記事では福岡アジア美術館誕生の歴史や歩みをはじめ、館内のことや展示について、そしてこれからについて紹介します。今回は、開館当初から同館に勤めている学芸員・ラワンチャイクン寿子さん(以下、ラワンさん)に、お話を伺いました。
「福岡アジア美術館」1階エレベーター前にある、縦4メートル、横11メートルの壁画。中国のアーティスト・卜樺(ブー・ホァ)さんによるもので、タイトルは「最良のものはすでにある」(写真:山中慎太郎(Qsyum!)/Shintaro Yamanaka(Qsyum!) 2018.4撮影)。
福岡にいながらも、福岡アジア美術館(以下「あじび」)をよく知らない、知っているけれど実は行ったことがない、といった人もいるのではないでしょうか。このほか、美術館とは作品を見るだけの「ちょっと真面目なかしこまった場所」だとイメージする方も多いかもしれません。ここでは、まだあじびへ行ったことがない方、気になっている方、行ったことはあるけれど鑑賞以外で利用したことはない方など、さまざまな方に向けて、まずは同館の施設や設備について紹介していきます。
「アートカフェ」(写真:山中慎太郎(Qsyum!)/Shintaro Yamanaka(Qsyum!)2018.4撮影)
美術館内には、展示室以外にもアートカフェがあります。ここでは、買い付けた本や全国の美術館と図書交換を行ったものなど、アジアに関するさまざまな本が1万冊配架されています! 図録など、パラパラめくるだけでも楽しめる本が多く、誰でも、気軽に無料で読むことができるほか、検索機から気になる本を検索することもできます。
文字だけではなく、写真や絵を見て楽しめる本もたくさんあります。今までのあじび企画展の図録なども並んでいます。
「キッズコーナー」
館内には小さな子どもが遊べるキッズコーナーもあります。親子で来てもらいたい、未来のファンを増やしたいという思いから、2005(平成17)年にできました。ラワンさんは、自身も子育ての経験があることから「キッズコーナーを設けているので、安心して遊べる公園のような存在としても美術館を活用してもらえたら」と話します。
ミュージアムショップ「ロンホァ」
ミュージアムショップでは、さまざまなアジアの国に関するグッズを販売しています。インドの神様に関するミニゴールドポスターや、アクセサリー、同館の所蔵品をモチーフとしたマグネットなどのオリジナルグッズを多数用意しています。
ちなみに、学芸員であるラワンさんは、さまざまな美術館へよく出かけるそうですが、ミュージアムショップをいつも最初にのぞくといいます。その美術館にしかないオリジナルグッズをチェックし、展覧会を見終わった後に、再度グッズを見たり買ったりするのが楽しみなんだとか。皆さんも、あじびにしかないグッズを見つけてみてください!
あじびのレジデンス事業に参加しているアーティストが子ども向けのワークショップも行っています。ワークショップを行う目的には、親子で楽しんでもらいたいという思いもあると言います。親世代だけではなく、子ども世代が小さな頃からアートに触れることで、未来のファンを作っていくことにも力を入れています。このほか、毎年5月には「バックヤードツアー」も開催。同館学芸員が、普段見ることができない美術館の裏側を案内してくれます。詳しい日程は、あじびホームページでチェックしてみてください!
「第1回福岡アジア美術トリエンナーレ1999」(会期:1990年3月6日~6月6日)でのナヴジョット・アルタフ(インド)の作品「もうひとつの実践方法─世界をいかに作るか」の展示の様子。
あじびの施設について紹介してきましたが、皆さん、あじび誕生の歴史についてはご存じでしょうか?
同館の開館には、実は福岡市美術館(福岡市中央区大濠公園)の存在が欠かせません。福岡市美術館は1979(昭和54)年に開館し、当初から、アジア美術作品の収集や展覧会開催などに取り組んでいました。「アジアに目を向ける」という当時の市政のもと、開館~1994(平成6)年ごろまで、5年に1回程度のペースで「アジア美術展」を開催するなど、アジア各地の美術館や関係者、アーティストとのネットワークを作ってきました。
それらを経て、既に福岡市美術館のアジア美術に関する所蔵品が500点を超えていたこと、アジアとのネットワークが構築できていたことなどから、「アジアに特化した専用美術館を作ろう」と、福岡アジア美術館の設立に向けた構想が始まりました。そうして、約7年の準備期間を経て、1999年に満を持して開館。開館時には、作品は1000点ほどになっていたそうです。
開館を間近に控えた当時のパンフレット。「にわかせんぺい」をモチーフにしたのだとか!
開館を間近に控えた、当時のパンフレットの中身。さまざまなアジアの国の作品画像が掲載され、わくわく感が伝わってきます。
福岡という土地は、志賀島で見つかった金印の歴史からも分かるように、古くから、アジアと日本を結ぶ玄関口としての役割を担ってきました。実は、福岡アジア美術館が建っている場所は、中世の港の真上にあるのだとか。そうした歴史的な背景も踏まえて「福岡にあじびがあるということは、歴史から見ても自然なことで、意味があると思います」とラワンさんは話します。
アジア美術に特化した美術館は世界にいくつかありますが、古美術を取り扱うことがほとんどだといいます。近代(およそ19世紀以降)~現代にかけての「アジアの近現代美術」に特化した美術館というのは、実は日本国内だけではなく国際的に見ても、福岡アジア美術館が初めてだったといいます。
ラワンさんは「美術の境界を広げ、大衆芸術、民族芸術なども含めて『美術』と捉え直し、コレクションしているところが当館の特徴・方針です」と紹介し、「大衆美術などを含めて近代から現代までのアジア美術の歴史的な流れを展示でたどることができるのは当館だけで、大きな特色になっています」と話します。
「第1回福岡アジア美術トリエンナーレ1999」(会期:1990年3月6日~6月6日)では、パキスタンのアーティストによって装飾されたタンクローリーが「博多どんたく」に参加しました。
25年間でさまざまな企画展を開催してきた同館。その一つとして開館記念展として開催した「福岡アジア美術トリエンナーレ(福岡トリエンナーレ)」があります。2014(平成26)年までに、5回開催されました。同展は、福岡アジア美術館の継続的な調査研究や、交流事業の成果と蓄積を生かし、毎回異なるテーマで「アジア21カ国・地域の美術の新傾向を紹介する展覧会」として、国内外からも高い注目と評価を受けていました。
福岡トリエンナーレは、「結果的に、コアなアートファン向けになった側面がありました。もっと市民が親しめる内容や市民向けのPRが必要だったという反省がありますが、一方で、あじびの活動を推進する核であり、作品収集や新たな企画を考える上でも重要なものでした」とラワンさんは話します。
2004年9月4日~10月17日に開催された展覧会「チャイナ・ドリーム 描かれた憧れの中国――広東・上海」会場入り口。
このほか、中国近代美術の一つの流れにスポットを当てた企画展「チャイナ・ドリーム」や、ヒンドゥーの神々のイメージの変遷を古代から現代までたどった展覧会「ヒンドゥーの神々の物語」など、特徴的な企画展も主催してきました。このようにして、アジア美術の発信地としての重要な役割を果たしてきたのです。
会場入り口に展示されたファン・リジュンさん(中国)の作品「シリーズ 2 No.3」(1992年)
開館25周年記念として、現在「福岡アジア美術館ベストコレクション展」(4月9日まで)を開催中です。現在も活躍する作家の中から、アジア美術の「オールスター」とも言える10名のアーティストを紹介し、大きなサイズの作品にスポットを当てた作品展示を行っています。会場では、同館が所蔵する約5000点のコレクションの中からえりすぐりの24点を展示しています。
リン・ティエンミャオさん(中国)の作品「卵 #3」
展示作品の中には、このように天井近くまで高さがある立体的な作品もあります。展示するのも一苦労な作品ということで、その大きさに圧倒されます。実はこちらの作品、約10年ぶりの展示で、次はいつ見られるか分からない作品だそうです。会期も残りわずかなので、この機会にぜひ足を運んでみてください。
今後は第2弾「開館25周年記念 福岡アジア美術館ベストコレクションII(仮称)」も9月に開催する予定で準備を進めています。
ウ・ティエンチャン(呉天章)の「春宵夢IV」(1997年)。「福岡アジア美術館開館25周年記念コレクション展 アジアン・ポップ」展に出品予定。
広告やマスメディアなど、大量消費社会が生み出したイメージをシンボリックに表現に取り込み、時代や社会をアイロニカルに捉える「ポップアート」。本展では、国際的に活躍するアジアのアーティストが生み出したポップアートの作品を、アーティストが創作の源泉とした映画や商業ポスターなど、アジアの大衆美術と組み合わせて紹介します(会期:4月20日~9月3日)。
25年、四半世紀という節目を迎えた福岡アジア美術館。今後もさまざまな企画を考えていると言いますが、その中で感じる課題もあると言います。長く続いていく美術館になっていけるよう、今後についてラワンさんへ話を伺いました。
2023年度のあじびレジデンス事業に参加したジン・チェ&トーマス・シャインさんによる、アーティストカフェ福岡での作品 展示の様子(2023年9月16日~10月22日)。
美術が好きな方、なじみのある方にとっては認知度の高い同館ですが、「まだまだ存在を知られていない」とラワンさんは話します。美術への敷居が高そうなことや、7階~8階という高層階に位置することで立地的に気づかれにくいなど、同館として課題を感じているそうです。
ラワンさんは「作品の解説を難しく感じるかもしれませんが、理屈抜きにして、ただ作品を見て純粋に楽しんでもらえたら」と言います。「美術館は美術品を見に来るだけの場所ではありません」と言い、「キッズコーナーやカフェもあるので、ふとした時に足を運ぶなど、ぜひ日常使いもしてもらえたら」と話します。
この先、大学生などのZ世代にも来館してもらえるよう、面白い企画を考えているということなので、今後の「あじび」にますます注目です。