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来年1月には記念公演も
「福岡発の笑いを全国へ」福岡吉本、今年で開設20年

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■「劇場は赤字でも、芸人は舞台が基本」

「とりあえず、九州で人気者を作るところから始まった」――。「当時の福岡はお笑い市場が狭く、お笑い番組を作る土壌もなかった」と振り返るのは福岡事務所の中島真一所長。設立当初は話題を集め、1999年には博多駅に専用劇場も開設。しかしブームは去り、経営は赤字続きで2004年、やむを得ず閉鎖へ。20年の間には紆余曲折もあった。


「舞台がやはり基本ですからね」――赤字から始まった劇場経営だが「劇場があればいつでも芸人を舞台に立たせられる」と中島所長。「舞台に上がるのが年に1回の天才芸人と365日の下手な芸人とでは3年後、成長するのは下手な芸人。芸人を育てることが一番の優先順位だった」と話す。


お笑いブームの今、年1回のオーディションには大勢の芸人志望者が押し寄せる。「今はお笑い番組も多く、オーディション出場者のレベルも上がっている。親が息子を吉本に入れたいと問い合わせがあるほど」という。


福岡の看板芸人として活躍、2005年の東京進出で全国区になった博多華丸・大吉さんを始め、今年は九州出身コンビ「パンクブーブー」もM-1新王者に輝いた。専用劇場は無くなったものの、現在は天神各所のホールで公演を行っている。「今後も東京で成功する九州出身の芸人が100人くらい育っていってくれれば」と期待を寄せる。


■悩みに悩んだ博多弁漫才

「いや~長かったですね、20年。まさかここまで続くとは。さすがの吉本も撤退すると思ってましたよ。福岡にはボケに対してツッコむという文化がなかったですからね」――。


そう話すのは、博多弁漫才を全国区にしたコンビ「博多華丸・大吉」の2人。福岡事務所の1期生だ。所属当初から福岡吉本の看板芸人としてテレビやイベントで活躍。2005年には東京事務所へ移籍し、華丸さんは児玉清さんのモノマネネタで2006年、ピン芸人日本一を決める「R-1ぐらんぷり」で優勝。コンビでのテレビ出演も増え、全国区へ一気に駆け上がった。


「『博多にわか』は聞いて拍手するスタイルでしょ?そこに吉本のスタイルが飛び込んだわけですよ」と大吉さん。「ボケとツッコミをしなさい。『なんでやねん』は禁止と言われて。いや~きつかったな~(笑)」と振り返る。


当時の所長からの注文は博多弁での漫才。華丸さんは「コテコテの博多弁を使いすぎると変な感じになるし、イントネーションは博多弁で言葉は標準語に近づけるなど、試行錯誤の20年でした」と話す。「後輩の福岡芸人には、人の良さオンリーで頑張ってほしいですね」とも。


東京では九州出身芸人を中心に結成した新喜劇「博多華丸・大吉劇団」を設立。来年の20周年記念ライブで福岡初披露となる。


■個性豊かな若手も続々

●クッキーズ
2人合わせて0.2トンです!」――2005年に結成。平川高志さんと池内祐介さんから成る。「僕は1年前、本当に100キロちょうどをたたき出しました」と池内さん。「(平川さんを指差しながら、こっそり)こいつはちょっとサバ読んでいるんですよ(笑)」とか。「重量感がある漫才がウリです」。これからの20年の目標は?――「福岡に居ながら、全国に名前が知られているコンビになりたいっす」と目を輝かせる。


●小川恵夢
芸歴1年2カ月。大学卒業後、お笑いの世界へ。福岡ソフトバンクホークスが大好きで、公式グッズショップでバイトしながら活動している。フリップ片手にホークス選手に鋭くも愛があふれるツッコミで繰り広げるホークス漫談が代表ネタ。「福岡の女芸人といえば小川恵夢といわれるように、福岡のお笑いを盛り上げていきたい」と笑顔を見せる。


■今年、九州発のM1王者が誕生

漫才日本一を決める「M-1グランプリ2009」。今年、九州出身のコンビがグランプリに輝いた。福岡市出身・黒瀬純さん、大分市出身・佐藤哲夫さんのコンビ「パンクブーブー」。それぞれ別の相方と吉本興業福岡事務所に所属していたが解散。解散時期が重なった2人で2001年にコンビを結成し、上京した。


福岡時代、博多駅前でライブチケットの手売りも経験。黒瀬さんは「福岡での苦労といえば、週2回の舞台、月1の営業。週1のテレビ出演にもかかわらず安い給料でバイトもできない日々。さらに買い取りのライブチケットを手売りする日々。本当に『金がねぇ~』という感じでした」と振り返る。


「九州男児が勝負せんでどうする」と立ち向かったM-1。「励ましのメールや準決勝で敗れるたびに飲みに連れて行ってくれた」という福岡の先輩芸人、博多華丸・大吉さんに支えられたと口をそろえる。「とりあえず飲みいこうや」「お前らの漫才すごく面白いぜ」――佐藤さんは「2人のこの言葉は本当に勇気が出ます」と笑顔を見せた。


芸人の成長を優先した赤字覚悟の劇場設立、博多弁漫才の苦悩、これからの20年に目を輝かせる若手…。地元の放送局が制作した番組には欠かせない存在の福岡吉本芸人。


「ただいまー!みんなー」――新王者の2人は両手をあげて福岡のファンの前に立った。今月22日、天神で行った凱旋(がいせん)ライブでのこと。九州発の笑いがまた一つ、全国区へ飛び立った。



取材・文/編集部 秋吉真由美

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