プレスリリース

ダム氾濫のリスク、「堆砂」を活用してアサリが復活

リリース発行企業:福岡工業大学

情報提供:




福岡工業大学社会環境学科の田井研究室は全国のダムで氾濫リスクの大きな要因になっている「堆砂」を活用して海の水産資源の復活につなげる研究に取り組んでいます。「堆砂」はダムの上流から流れ込んだ土砂が時間とともにダム底に堆積したものです。我が国のダムでは堆砂が深刻な課題となっており、国土交通省が所管する全国のダムのうち、10%以上のダムで計画堆砂量を超過していることが明らかになっています。
(令和5年度末時点:68ダム/575ダム 資料:https://www.mlit.go.jp/river/dam/taisa/taisha_joukyouR6.pdf
ダムの堆砂の進行は貯水容量の減少や取水障害を引き起こすだけでなく、貯水量の低下によって、災害時に十分な氾濫防止機能を果たせなくなるリスクが発生します。特に近年のゲリラ豪雨による災害発生などに備えるためにこの対策は急務と言えます。
田井研究室は、この堆砂に注目。熊本県の緑川ダムの堆砂を下流の有明の干潟に運び、アサリの生息する干潟に覆砂して良質な生息砂床として活用したところ、ダム堆砂が干潟に定着するともにアサリの成長を1.6倍ほど促すことを実証しました。リスクである堆砂を海の資源復活に活かす本研究は高く評価され、「令和7年度 河川基金研究成果発表会」において環境大臣賞を受賞しました。
堆砂率93.6% 緑川ダムの堆砂問題を解決せよ

緑川ダムの堆砂量
ダムは設計段階で堆砂シミュレーションを行い、堆砂が進行することを見越した上で、100年間の使用に耐える容量で設計されます。しかし、災害の発生による大規模な想定を超える流入などの影響もあり、全国のダムで当初の想定を超える堆砂の進行が課題になっています。熊本県の緑川ダムは平成28年の熊本地震による上流域の崩壊と、その後の出水などを受けて貯水池内の堆砂が進行し、2023年度時点で堆砂容量は93.6%に達しており、堆砂を排出するための早急な対策が求められていました。
堆砂の処理には排出ゲートの新設による下流域への放流や、処分地への運搬が方法としてありますが、流域の環境への影響や処分地を確保するコストなど、多くの課題も残されています。



堆砂を有明海の水産に活用!減少するアサリの生息地に



本研究では緑川ダムの堆砂土を昨年(2024年)3月に緑川河口の緑川干潟に運搬して、アサリの生息砂床として干潟に散布しました。堆砂土には以下の特性があり、アサリの生育に適していると考えられます。
・ダムの堆砂土の成分である砂は粒子径が比較的大きく、潮流の影響を受けて流れ去りにくい。
・散布した地点に留まり、安定した生息地になる可能性が高い。
・堆積土に含まれる16mm程度の大粒の礫は潮流で揺さぶられないため、アサリの稚貝が安定して定着しやすく、 呼吸のための水管も伸ばしやすいため、貧酸素に陥らない生育環境につながる。

本研究で散布した干潟の5地点では覆砂した領域は約半年の経過後も残存し続けました。
さらに、領域内では覆砂から4カ月経過以降からアサリの個体数の増加傾向が認められ、殻長の伸長については領域外と比べて2倍程度になる地点もあり、特に著しい効果が見られました。
研究の特徴、今後の展望
特徴
・深刻な課題を生む「堆砂」を水産資源復活に繋げるオリジナリティのある着想に基づいた研究です。
・研究は実証海域と河口域に関係する川口漁業協同組合および緑川漁業協同組合との綿密な協議を重ね、さらに熊本県環境立県推進課の協力のもと、養殖ノリのシーズンなど地域の漁業活動への影響を十分に考慮して実施されました。大規模な覆砂について現地の関係者の皆様の理解を得られ、実際に有用なデータが取られた希少なケースです。世界的に見ても初めてと言える実験データが得られました。
今後の課題
・今後、「なぜ、アサリは堆積砂によって作られた環境下で著しく成長したのか」「個体数の増加について与える影響」などについて、詳細な分析を行っていくことで、成長促進のプロセス類型化して解明し、有明海の水産資源の復活により寄与できる知見の獲得を目指していきます。



福岡工業大学 社会環境学部 社会環境学科
田井 明教授
研究分野:環境水理学 防災工学

  • はてなブックマークに追加
エリア一覧
北海道・東北
関東
東京23区
東京・多摩
中部
近畿
中国・四国
九州
海外
セレクト
動画ニュース